top of page

コミュニケーションの考古学:マヤ神聖文字の研究ができること

フェリックス・クップラト

(メキシコ国立自治大学)

​(初来日)

YAX 2015.jpg

マヤ文字碑文の研究は様々な観点から進められてきた。そのなかでも最も特筆すべきはやはり20世紀後半に起きた古典期(紀元後250年〜900年)碑文テキストの書記体系解読と構造分析の進歩である。現在では様々な古代マヤ王国の歴史物語が復元され、多くの巨大都市やその周辺都市で「何年に何が起こった」というかなり細かい歴史年表までが理解されつつある。


しかし、近年のマヤ碑文学が扱う領域はこういった歴史記録の復元という分野だけではない。歴史言語学、文献学、文法学的な視点から、幅広いテキストの集成データベースを異なる遺跡、地域、時間軸間で比較検証し、単なる王の年代記を超えた社会動態の研究が行われているのである。


本講演は特に儀礼実践とその碑文における表出について議論し、こういった新たなマヤ碑文学の視点を紹介する。マヤ文字碑文は定型化された活字ではなく、人々の会話、学習、儀礼、ビジュアルアートを含む一連のコミュニケーションの産物なのであり、総合的に研究を進めることで特定の社会集団を区切る重要なマーカーとして機能するのである。つまり、より広い人間活動の物質的で象徴的な証拠としてマヤ碑文を見た場合、共時的視点で文化の境界を見定め、通時的な視点で歴史における変化と連続性を再構築することができるのである。そういった意味で碑文テキストと土器や建造物、人骨の研究は直接考古学的に比較研究も可能なのである。

講演者略歴

ドイツ、ボン大学卒業、メキシコ国立自治大学で博士号を取得後、同学人類学研究所特別研究員を務める。グアテマラの民俗学的調査やパレンケ、ワシャクトゥン、ウシュル、ヤシュノフカなど古代マヤ文明圏各地で発掘経験を持ち、専門は碑文学、図像学、特にマヤ考古学における「記憶」の表象理論について研究を進めている。

bottom of page