top of page

黒曜石製石器の蛍光X線分析と金属顕微鏡による石器の使用痕分析:

グアテマラ、セイバル遺跡

の事例研究

青山和夫 

(茨城大学)

aoyama.png

本研究発表は、グアテマラを代表する国宝級の大都市遺跡セイバルと周辺部から出土した86,624点の石器の通時的研究を通して、交換、ものづくりと宗教儀礼という、マヤ文明の政治経済組織の長期的な変化の一側面を明らかにする。2005年からの私たちのセイバル遺跡の大規模な発掘調査によって、公共祭祀建築は従来の学説よりも200年ほど早く前1000年頃に建設されたことが明らかになった。ハンドヘルド蛍光X線分析計をグアテマラに持ち込んで5,376点の黒曜石製石器の産地を同定し、肉眼観察と組み合わせて全黒曜石製石器の産地を同定した。高倍率の金属顕微鏡を用いた分析法によって世界で初めて先古典期(前1000~後200年)のマヤ文明の磨製石斧及び他の石器の使用痕を分析した。

供物として埋納された大部分の磨製石斧が実用品ではなく儀式石器であり、使用済の磨製石斧は全て木の削りに使われていたことが判明した。先古典期中期後半(前700~前350年)には、セイバルの人々は、高度な製作技術が窺われる完形の石刃残核や翡翠製装飾品などの象徴・儀礼的に重要な供物を公共広場に十字状に埋納してマヤの小宇宙を象徴した。セイバル遺跡の公共広場で繰り返し慣習的に行われた埋納儀礼を含む公共祭祀という反復的な実践は、集団の記憶を生成し、中心的な役割を果たす権力者の権力が時代と共に強化された。初期支配層は地域間交換に参加して、黒曜石や翡翠のような重要な物資、美術・建築様式などの知識を取捨選択しながら権力を強化した。公共祭祀を形作り物質化したイデオロギーは、地域間交換など他の要因と相互に作用してマヤ文明の支配層の形成に重要な役割を果たしたのである。

​講演者略歴

1962年京都市生まれ。東北大学文学部史学科考古学専攻卒業。ピッツバーグ大学人類学部大学院博士課程修了、Ph.D.(人類学)。茨城大学人文社会科学部教授。専門はマヤ文明学、メソアメリカ考古学・人類学。1986年以来、ホンジュラスのコパン遺跡とラ・エントラーダ地域、グアテマラのアグアテカ遺跡とセイバル遺跡などでマヤ文明の調査に従事。科研費新学術領域研究「環太平洋の環境文明史」(平成21~25年度)と科研費新学術領域研究「古代アメリカの比較文明論」(平成26~30年度)の領域代表者。「古典期マヤ人の日常生活と政治経済組織の研究」で日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞を受賞。

主な著書に『マヤ文明を知る事典』(東京堂出版)、『マヤ文明』(岩波新書)、『‘謎の文明’マヤの実像に迫る』(NHK出版)、『古代マヤ』(京都大学学術出版会)、『古代メソアメリカ文明』(講談社)、『Elite Craft Producers, Artists, and Warriors at Aguateca』(University Press of Utah)、『Ancient Maya State, Urbanism, Exchange, and Craft Specialization』(University of Pittsburgh Press)、『世界歴史の旅 古代アメリカ文明』(共著、山川出版社)、編著書に『マヤ・アンデス・琉球』(朝日選書)、『文明の盛衰と環境変動』(岩波書店)など。

bottom of page