III International Symposium on
the Ancient Maya in Japan:
Recent Interdisciplinary Research in
Maya Archaeology
第3回
国際マヤシンポジウム
異分野融合で見える最先端のマヤ考古学
完全非破壊化学分析法による
古代グアテマラの石製遺物の研究
飯塚義之(台湾中央研究院/金沢大学)
T. バリエントス(デルバジェ大学、グアテマラ)
A. サンドバル(デルバジェ大学、グアテマラ)
P. エストラダ(デルバジェ大学、グアテマラ)
鈴木真太郎(岡山大学)
ポータブル型蛍光X線分析装置(p-XRF)は、簡便かつ完全非破壊で遺物の化学分析を行うことができる。このp-XRFを用いて、低地(ラ・コロナ)、高地(カミナルフユ、アティトラン)、南海岸(モンテ・アルト)の遺跡から出土した石製遺物の石材分析を行った。ラ・コロナから出土した石製遺物(装飾品)の大半は緑色のヒスイ岩で作られている。一方で、高地、南海岸の石製遺物は、ヒスイ岩はもとより、蛇紋石、雲母、カリ長石、灰長石、葉蝋石などの緑色系の石材や火山岩、変成岩などで製作されている。これまで、これら緑色の石材については科学的な根拠なしに、そのほとんどが緑色岩あるいは玉(jade)と記載されてしまうことが多かったが、実際には多様な石材が用いられていることが明らかとなった。ヒスイ岩は、グアテマラ中部のモタグア地域から限定的に産することが知られており、中央アメリカ一円に拡がるヒスイ岩の供給源と考えられている。しかしながら、本調査によって、古くから活用されてきた石材は多様であり、それらの供給源はまったく知られていないこともわかった。またこれまで黒色の黄鉄鉱製と称されてきた装飾品や鏡、歯の埋め込み装飾などを分析したところ、これらは、黄鉄鉱製ではなく、針鉄鉱で製作されていることが明らかになった。本調査結果は本地域の石材の多様性やそれらの供給源の探索を新たな課題として示すきっかけになったと考える。
登壇者(飯塚義之)略歴
台湾、中央研究院地球科学研究所(研究技師)、金沢大学国際文化資源学センター(客員研究員)。岡山大学で博士課程を修了後(理学博士)、アメリカ・ワシントンDCのカーネギー研究機構でポスドク研究員として過ごす。1998年から台北の中央研究院に在籍。電子顕微鏡技術を用いた火山岩や変成岩の研究を専門としている一方で、分析技術を応用して考古遺物、特に東南アジア・東アジアの石器石材や中国青銅器鋳造技術の研究などに取り組んでいる。専門は地球科学、岩石学、文化財分析科学。